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ノロウイルス(Norovirus)
                             


  ウイルスは細菌(バクテリア)と大きく異なり,自己複製能力を持たないので,他の生物の細胞に感染してその細胞 を利用して増殖する.一方,細菌は自己複製能力をもつので,適当な栄養,環境があれば増殖することができる.ノロ ウイルスは食中毒,感染症の原因ウイルスの一種で,嘔吐,下痢,吐き気,腹痛などの症状を引き起こす.このウイル スは,以前に小型球形ウイルスSRSV(Small Round Structured Virus)と呼ばれていたものの一つで,最近の国際ウイル ス命名委員会における分類体系の整理,提唱に基づき,ノロウイルス(Norovirus)と呼ばれるようになった.ノロの 名称は,このウイルスが米国オハイオ州ノーウォーク(Norwalk)の症例から初めて分離されたことに由来する.
  この食中毒,感染症は,冬期によく見られる.その原因は多様であるが,本ウイルス100 個以下の摂取でも発症する とされる.このウイルスはヒト腸内で増殖するので,患者の糞便や嘔吐物に多量に含まれる.ノロウイルス食中毒では 様々な食品が原因となる可能性があり,食品の調理や製造時において,ウイルス汚染糞便や嘔吐物などによる食品汚染 などに十分注意する必要がある.また,ヒトへの感染原因として,汚染糞便,嘔吐物との接触,トイレのノブなどを介 した接触,あるいは,それらの乾燥・飛散などがある.カキなど(二枚貝)における食中毒では,ウイルス汚染糞便や 嘔吐物から,下水,河川,海水を経由して,貝の中腸腺にウイルスが蓄積するとされる.
  現在のところ,ノロウイルスの適当な培養方法は開発されていない.したがって,本ウイルスの検出には,遺伝子 (RNA)の増幅を行うPCR 法,抗原抗体反応を利用したELISA 法,あるいは電子顕微鏡法などを用いる.本ウイルスの 失活には,エタノールや逆性石けんはほとんど効果がなく,次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度200 ppm),加熱(85 ℃, 1 分)が有効とされる.また,予防ワクチンはなく発症後の特効薬もないため,対症療法で対処される.
 

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