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CCS (Carbon dioxide Capture and Storage)
                             


 近年,大気中へ排出されているGHG(温室効果ガス)の削減に向けた取り組みが進められているが,他のGHG に比 べ排出量が多いCO2 の排出量抑制は重要な課題となっている.この解決策の一つとして注目されている,発電所・製鉄 所・油田・ガス田などの大規模排出源から排出段階で他の気体とCO2 を分離・回収し,深い地中や海中に隔離・貯留す る技術(Carbon dioxide Capture and Storage :以下CCS)を紹介する.
 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は,2005 年にCCS の可能性を評価する特別報告書で,CCS を「大気中の GHG 濃度を安定化させるための主要な対策の一つ」と位置づけ,地球温暖化緩和策の技術オプションの一つとしてい る.また,CCS の持つポテンシャルは,世界中で2 兆CO2 トンものCO2 を貯留・隔離できる可能性があると試算し,再 生可能エネルギーを主体とする社会の実現までの「つなぎの技術(ブリジングテクノロジー)」として期待されている.
 CCS の技術は,大規模排出源からのCO2 の『分離・回収』,油田・ガス田などへの『地中貯留』,海中・海底への『海 中隔離』に分けられ,主な技術として下記のものがあげられる.
 
(1)分離・回収
① 化学吸収: CO2 を選択的に溶解できるアルカリ性溶液との化学反応により吸収し,蒸気で加熱してCO2 を分離する.
② 物理吸収:高圧下でCO2 を大量に溶解できる液体にガスを接触させ物理的に吸収し,減圧(加熱)して回収する.
③ 膜分離:多孔質の気体分離膜にガスを通し,孔径によるふるい効果や拡散速度の違いを利用してCO2 を分離する.
④ 物理吸着:ガスを活性炭やゼオライトなどの吸着剤と接触吸着し,圧力差や温度差を利用してCO2 を脱着させる.
⑤ 深冷分離:ガスを圧縮冷却後,蒸留操作による相分離でCO2 を分離する.
 
(2)地中貯留
① 帯水層貯留:地下1 000 m 以上の帯水層(粒子間の空隙が大きい砂岩などからなり,水や塩水で飽和されている地 層)へ超臨界状態のCO2 を圧入し貯留する.
② 炭層固定:炭層内の石炭の微細な空隙にはメタンが吸着しているが,CO2の吸着率の方が大きい特性を利用し,CO2 を注入して吸着させ貯留し,着脱したメタンを回収する.
③ 石油・ガス増進回収:石油・ガス層へCO2 を圧入し,石油・天然ガスの回収を促進するとともにCO2 を貯留する.
④ 枯渇油・ガス層貯留:枯渇した石油・ガス層へCO2 を圧入し貯留する.
 
(3)海中隔離
① 溶解希釈(固定式): CO2 を陸上から海底パイプラインで輸送し,水深1000 ~ 2 000 mに液体のCO2を直接放出し, 海中に溶解希釈する.
② 溶解希釈(移動式): CO2 をタンカーで輸送し,海中へ伸ばした放流管から水深1 500 ~ 2 500 m に液体のCO2 を直 接放出し,海中に溶解希釈する.
③ 深海底貯留隔離:水深3 000メートル以上の深海に液体のCO2を送り,深海の低温・高圧の環境下で生成されるシャ ーベット状の膜(CO2 ハイドレート)に変え,海水との比重差・拡散抑制効果を利用し,海底の窪地へ沈降させて集 めCO2 を貯留する.
 
 これらの技術のうち,すでに海外では幾つかの産業規模の地中貯留プロジェクトが実施され,主な事例として石油・ ガス増進回収の「ワイバーン・プロジェクト(カナダ)」,帯水層貯留の「スライプナー・プロジェクト(ノルウェー)」, 「インサラー・プロジェクト(アルジェリア)」があげられる.日本においてもNEDO(独立行政法人新エネルギー・産 業技術総合開発機構)・RITE(財団法人地球環境産業技術研究機構)が中心となって,新潟県長岡市での帯水層貯留, 夕張炭田での炭層固定の実証試験が行われている.これらのプロジェクトにおいて,貯留層シミュレーション,貯留層 内のCO2 モニタリング,地質化学メカニズムなどの技術の開発・評価が進められている. 以上のようなCCS 技術には,コストの削減,圧入したCO2 の漏洩,環境への影響,安全性評価手法の確立,海洋生 態系への影響,法制度の整備,国民の理解など解決すべき課題は多い.しかし,地球温暖化が世界的に問題視されている 状況下では,革新的な解決策がない現状を考えるとCCSはCO2 排出量を抑制する有効な技術の一つである.
 
文 献

1)経済産業省「技術戦略マップ2007」,CO2の固定化・有効利用分野.

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