可変シリンダ
圧縮機は,その圧縮方式により,容積式と遠心式に大きく分かれる.容積式には,レシプロのような往復動式と,ロ
ータリ,スクロール,スクリューなどの回転式があり,遠心式にはターボ式がある.容積式は,その圧縮室の数から1
気筒と多気筒がある.1 気筒は圧縮室が1 つのものであり,多気筒は複数の圧縮室があるものである.最近,家庭用エ
アコンでは,圧縮室が2 つある2 シリンダ・ロータリコンプレッサが主流となっている.その2 シリンダ・ロータリコ
ンプレッサの中で,“可変シリンダ”が登場した1).“可変シリンダ”とは,2 つの独立する圧縮室を小さな2 つのコン
プレッサと考え,気筒数を切換運転することである.例を挙げて,ツイン運転,シングル運転の切換え機構動作を説明
する.
(1)ツイン運転
エアコン運転開始時などの大能力域では,2 つの圧縮室を使用したツイン運転(能力100 %)を行う.このツイン運
転では始動直後,上部圧縮室でまず圧縮を開始させる(図1(a)).このために上部圧縮室側には,停止中でも圧縮室を
仕切っているベーンを,ローリングピストンに押し付けられるように,圧縮コイルスプリングをベーン背部に設けてい
る.上部圧縮室で圧縮された冷媒ガスが,ケース内に排出されると同時にケース内圧力が上昇,下部圧縮室のベーンを
背後から押し,ベーンがローリングピストンに追従することによって圧縮を開始,ツイン運転が開始される.
(2)シングル運転
エアコン設定温度付近などの小能力域では,図1(b)のように,エアコンサイクルより下部圧縮室内に高圧冷媒ガス
を導入,ケース内と下部圧縮室内の圧力をバランスさせる.するとそれまで圧力差によりローリングピストンに押し付
けられ追従していたベーンが離れ,ベーン室背部に近接して設けた小型磁石に吸引され,保持される.この一連の動作
により,下部圧縮室側は空転,上部圧縮室のみで圧縮仕事を行うことでシングル運転となる.
上記のように,ツイン運転・シングル運転を切換える“可変シリンダ”を採用することにより,負荷に対応して圧縮
室数を選択し,大きな能力可変幅を得ることができるとともに,常に高効率で運転でき,省エネルギー,快適性を向上
することができる.
文献1)小野田泉,菊川元嗣:冷凍,79(925),17―20(2004).
|