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スターリング冷凍機
                             


 スターリング冷凍機という用語をどこかで聞かれたこともあると思うが,いざ,どういう冷凍機かといわれても説明 しにくいのが現実である.蓄冷型冷凍機の代表例としてのスターリング冷凍機を紹介する.
 スターリング冷凍機は,蓄冷器を介して高温部(圧縮部)と低温部(膨張部)が配置され,圧縮ピストンと膨張ピスト ンは90 度の位相を保ちつつ駆動されるのが特徴である.図1に従い,その4 つの工程を説明する.なお,実際の各工程 は連続して行われている.
 
Ⅰ(圧縮):
 
 
圧縮ピストンが右に移動し,作動気体(主にヘリウム)を圧縮する.このときの発生した圧縮熱は,シリ ンダ周囲に配した冷却水で除去される.
Ⅱ(予冷):
 
 
圧縮ピストンと膨張機ピストンが容積を保ったまま右に動き,圧縮ガスは蓄冷器を通ることで高圧のまま 冷却される.
Ⅲ(膨張):
 
 
圧縮ガスは膨張ピストンを右に動かすことで膨張仕事を行い,その結果,作動気体の温度は下がり,シリ ンダ周囲から熱を奪う.
Ⅳ(昇温):
 
 
圧縮ピストンと膨張ピストンが連動して左に動き,蓄冷器を通ることで蓄冷器を冷却しガス温度は上昇し, 1サイクルを終了する.
理想的な状態では,スターリングサイクルの効率はカルノー効率と一致する. このように非常にコンパクトなスターリング冷凍機であるが,その課題としては,以下の項目が挙げられる.
 (1)性能向上(蓄冷器)
 サイクルの性質として蓄冷器が効率に非常に大きく影響する.し かし,物質は一般的に低温になると比熱が小さくなることから最適 な蓄冷材の探求と,圧損低減と熱伝達向上を両立するための蓄冷部 形状の検討が重要である.
 (2)信頼性向上(不純物管理)
 極低温においては,作動媒体として用いられているヘリウム以外 の物質は固化してしまう.そこで,駆動部分に使用している潤滑油な どが低温部へ浸入することを防止するシールと,活性炭などによる 系内不純物除去対策が必要である.また,ヘリウムは原子が小さく非 常に漏れやすい.そこで,ピストン部のシールについても,無潤滑か つ良好なシール性を長期間にわたって保持することが求められる.
 (3)大容量化
 運転に伴い,熱はシリンダ内部に溜まる.この熱はシリンダ外壁 を通して外部へ伝わっていくが,大容量化のためシリンダ径を大き くすると内部の熱がシリンダ外周に到達しにくくなり,最終的に中 心部の熱は熱交換に寄与できなくなる.そのため実用上は,1 気筒 あたり80 K で500 W 程度の冷却が限界といわれ,大容量化には多 気筒化で対応することになり,小型高効率というスターリング冷凍 機の特長を生かしきれなくなる.
将来,超電導技術の普及や水素利用社会が広がれば,スターリン グ冷凍機などの蓄冷型冷凍機の需要の拡大が見込まれる.今後,上 記課題が克服され,更なる発展がなされていくものと期待している.
図1 スターリング冷凍機のサイクル例

 

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