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重力波 
 
学会誌「冷凍」に掲載された記事を集めました。
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 2016 年2 月,科学的大発見のニュースがあった.「重力波が初めて観測されました」「2 つのブラックホールが合体し たときの痕跡です」という内容であったのだが,覚えておいでであろうか.理論的および間接的にはその存在が証明さ れていた重力波だが,直接的な観測はこれまで実現されておらず,今回の発見はノーベル賞級のものである.ここでは その内容について簡単な解説を試みたい.
 
<重力波とは何か>
 重力波とは,「時空の歪み」「時空の波紋」などと表現されているもので,宇宙空間を光速で伝播する波の一種である. 質量を持った物体が加速度運動をすると放射されるのだが,それが周囲に与える影響は途方もなく小さいので,きわめて 重い物体が殊に激しい運動をしないと観測できるレベルにならない.たとえば,超新星爆発,中性子星同士の衝突,ブラッ クホールの形成などの天体イベントがその発生源とされている.重力波の存在は一般相対性理論で予言されてから長くそ の証明が試みられ,漸く近年になって間接的な証明がなされた.ある連星中性子星の公転周期が時間とともに短くなっ ているという観測結果と,連星中性子星は重力波放出(エネルギー損失)によって公転周期が短くなるという理論上の 予測値がピタリと一致したのである.これを発見したハルスとテイラーは1993 年にノーベル物理学賞を受賞している.
 
<観測困難な理由>
 一般相対性理論を提唱したアインシュタインでさえも「我々人類は重力波を検出できないだろう」と考えていたらし い.今回,重力波の作用として検出した長さ(空間の歪み)は1.0×10-18 m のオーダーであり,水素原子の直径が1.0× 10-10 m であることを考えると,我々の想像をはるかに超えた桁違いの微小変化であることがわかる.
 
<重力波観測装置>
 この微小変化を観測したのはアメリカの重力波望遠鏡「LIGO」である.3 000 km 以上離れたワシントン州(北西部) とルイジアナ州(南東部)に設置されている双子のレーザー干渉計型重力波検出器で,長さ4 km の2 本のアンテナがL 字型に配置された巨大な建造物である.そのアンテナ内部をレーザー光が往復していて,重力波が通り過ぎる際の縦と 横のアンテナ長さに生じる差異(変動)を捉えるという原理なのだが,原子1 個分よりはるかに小さい変位を捉えるため の工夫はどれほどだったのか.光学系の設計から,研磨や蒸着などの鏡面加工,光路の超真空化,装置全体の防振,分 子レベルの特性まで考慮した材料選定,電気的雑音,熱的雑音,機械的雑音の排除方法など,感度を高めるために費や した労力と資金は想像もつかない.しかし(それ故に),今回の発見が関係者にもたらした喜びもまた我々には想像でき ないほどに絶大なものだったであろう.
 
<重力波が教えてくれたもの>
 観測された信号は,およそ0.2 秒間の間に35 Hz から250 Hz 程度まで周波数を上げながら振幅も増大し,その後急速 に減衰するというもので,これを3 000 km 離れた2 つの検出器がほぼ同時に( 7 ミリ秒の差で)計測した.これが,宇宙 から到来した信号であるという証拠となった.さらに,一般相対性理論によってこの波形がどのような現象に由来する のかも明らかにした.「検出された重力波は,約13 億年前に太陽の29 倍の質量と36 倍の質量を持つブラックホール同 士が合体して1 つのブラックホール(太陽の62 倍の質量)が作られた際に,太陽3 個分の質量が重力波エネルギーに変 換されたもの」と説明がなされた.はるか昔の出来事が,0.2 秒間の情報だけで,これほど詳細に説明できることに驚か される.日本でもLIGO よりさらに感度を向上させた重力波検出器「KAGRA」(岐阜県飛騨市)がまもなく稼働すると のことで,益々の発展を期待したい.
 
 参考
 http://ligo.org/
 http://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/

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