最近気になる用語 292
氷点下飲料 
 
学会誌「冷凍」に掲載された記事を集めました。
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清涼飲料水,お酒,ミネラルウォーター….巷にはいろいろな飲料が市販されているが,味だけではなく容器のデザ インやキャッチコピーに至るまで遊び心が満載であり,消費者を楽しませてくれている.中でも最近気になるのは,氷 点下を冠した飲料が増えたことだ.冷凍空調学会の会員である以上,冷やす話題には常に敏感でなくてはならない.単 に氷点下の飲料といっても,ビールやハイボール,清涼飲料水では炭酸飲料など様々ある.最近では,家庭でも手軽に 氷点下飲料を楽しむことができるタンブラーやサーバーなども発売されるようになった.たとえば,居酒屋で提供され る氷点下のビールは-2 ℃程度(設定温度は-2.3 ℃)まで冷却されているが,ビールの融点は-3 ~-4 ℃であるため, 氷点下であっても凍結することはない.よく冷えたビールは好まれるので,-2 ℃で飲めるのであれば,それだけでも十 分に価値があるといえる.実際,低温にするとキメが細かくクリーミーな泡となるため,より美味しく感じられるそう だ.一方,清涼飲料水はいくらキンキンに冷やしても,何が変わる訳でもないため,それだけではもの足りない.もの 足りないので何か仕掛けが必要になってくる.今回,気になるのはここ数年コンビニエンスストアや自販機で試験的に 販売されている氷点下の清涼飲料水である.ここでの氷点下とはビールのそれとは異なり,飲料の融点よりも低い温度 域を指している.すなわち,動画サイトで検索すると10 600 件もアップロードされ,子供から大人まで楽しめるあの現 象がお金を払えば体験できることを意味している.
 筆者もコンビニエンスストアの店舗内に設置されている販売機(1 種類の飲料のみを販売する専用の冷蔵庫.設定温 度は-4 ℃)で炭酸飲料を購入したことがある.装置には正しい飲み方が記載されて,開詮後に一口のみ,再び詮をした 後,ゆっくり逆さまにすると凍りだすと記載されていた.通常の自販機のように現金を投入するのではなく,専用カー ドをレジで購入するシステムになっている.早速,レジでチケットを購入すると価格は税込151 円.通常の商品とまっ たく同じ.いくら楽しくても冷やすだけでは価値の付与にはならないのか….と思いながらカードを装置に挿入すると, いつもと同じ○○が普通の自販機と同じようにゴロッと落ちてきた.衝撃を与えると過冷却が解消してしまうのでは? と思ったが,そんな心配もよそにペットボトルの中は何も変化していない.そろりと開詮して一口のんでもいつもと同 じ.しかしながら,その後さらに説明通りに取り扱うと,ボトルの1/4 程度の量の氷がフワットできた.インターネッ トの動画そのままに目の前でフローズン○○が出来上がった.過冷却の研究で有名な,とある先生の論文にはいつも次 の決まり文句が書いてあった.「通常,過冷却は再現性に乏しいため,実験材料になり辛い…」しかしながら,この飲料 の過冷却は再現性に優れ,見事に氷が生成する瞬間を観察することができた.シャーベット状になった飲料は見た目も 楽しめるが,炭酸が柔らかくなり,味の感じ方もこれまでとは異なる印象を受けた.液面に漂う儚いシャーベット氷は, かき氷と同じ要領では作ることが難しい.単なるブームでは無く,新たな飲料として今後の展開が期待される.さて, 様々な水溶液の過冷却現象が気になる筆者としては,この飲料の過冷却が特殊な事例であるかを確かめる必要があると 思い,エマルション法という特殊な方法で過冷却限界(均質核生成温度)を測定してみた.その結果,過冷却は-42 ℃ で解消した.ちなみに純水の過冷却限界は-38 ℃である.糖類が11 wt%入っていればこの温度は妥当であろう.測定 しない方が良かったか? ここまで読んで過冷却に興味を持っていただいた方,詳細は来年の特集記事までお待ち下さ い.それではどうぞお楽しみに.

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