71.  常圧過熱水蒸気(2)


   8月号では常圧過熱水蒸気の理論について述べたが、今回は焼成について述べる。
(1)肉類の焼成
     冷凍焼き鶏用の肉は180~230℃で,骨付き鶏もも肉では160~180℃にて、風味ある良いものが 得られた、レトルトカレー用の肉はガス火等で焼くのが望ましいが、焦げた炭化物が混入するため、 現状ではボイルされている。そのため、風味が煮汁に出てしまい商品価値が落ちるといわれている。 過熱水蒸気を用いれば油脂の酸化が避けられ、炭化のしない焼成が期待できる。
(2)魚の焼成
     焼成温度は肉に比べて、多少高温となっている。アナゴは270℃,1.6分である。マダイは280℃,8分で 炭火の弱火で20~30分焼いたものに匹敵する焼き上がりとなる。冷凍サバは、200℃,8分のものが良品と 評価された。生イカでは240℃,5分のものが、外観、焦げ目、味ともに良品と評価された。
    歩留まりはいずれも高く、アナゴで約85%、マダイ、サバで90%と高く、商業上 有利である。
  常温魚と凍結魚の焼成の際の中心温度の変化を図1に示す。 最初は4分ぐらいの差であるが、70℃付近では2分の差に縮まっている。中心温度は、 肉類より多少低めの70~80℃ぐらいが、味が良いとされている。表面で凝縮伝熱のため、 水滴の付着により表面は硬くならず、柔らかく焼き上がるのが過熱水蒸気焼成の特徴である。
(3)炭化物質の焼成
   多くの焼成試験の中で、もっとも美味しいとされたのはさつまいもで、 石焼きいもと同じ焼き上がりであった。石焼きの熱源が遠赤外線であることから当然といえる。 美味しい焼きいもの焼成条件は、220℃20分であった。
   つぎに、食パンの焼成では180℃,5分,ロールパンは190℃,15分で 市販のパンに遜色のない評価を得ている。
(4)焼成のまとめ
a)凝縮伝熱に遠赤外線伝熱が加わって、速く伝熱するため、操作時間が短縮できる。 b)遠赤外線加熱が加わるため、柔らかい加熱となるが、適当な焦げ目をつけることができる。 c)水蒸気雰囲気中の加熱のため、酸素が存在せず、酸化をしない。特に油脂の酸化が避けられる。 d)表面に凝縮水が付着するため、表面硬化を生じず、表面の柔らかい製品となる。 e)ガスや電熱加熱に比較して、水分蒸発が抑えられるため、歩留まりが上がる。 f)凍結食材の解凍、焼成が一挙にでき、ドリップの流失がない。
参考文献:食品工業,vol.42 No.15