12.  自然冷媒(Natural Refrigerant)


  1930年にR12がフロン(フルオロカーボン)冷媒として初めて使用されて以来、圧力が適当なこと 、蒸発熱が大きいこと、化学的に安定で安全なことなどの理由により、フロンは広く普及し冷凍空調の発展に 大きく貢献してきた。
    しかし、1974年カリフォルニア大学のローランド教授がフロンによる オゾン層減少を指摘し、大気に放出されたCFC,HCFCがオゾン層を破壊することが明らかになると、フロンに対する 規制の要求が強まり、1987年にはオゾン層破壊物質に関するモントリオール議定書が採択されるまでになった。
    この頃からオゾン層保護、地球温暖化防止といった地球温暖化防止といった 地球環境を保護する立場から、ヨーロッパを中心に人工的に化学合成されたものではなく、もともと自然界に 存在し生成から消滅までの循環サイクルがすでに確立されている物質を冷媒として使用すべきだという考えが 提唱され、こうした考え方による冷媒を自然冷媒と呼んだ。これにはアンモニア,プロパン,ブタンなどの 炭化水素,炭酸ガス,空気,水,等がある。
   自然冷媒という言葉を初めて使用したのはノルウェー工科大学の故グスタフ・ロレンツェン教授のようで、 1993年に「Application of "Natural" Refrigerants 」という論文を書いている。この中でロレンツェン教授は 環境保全のためには自然冷媒が好ましいとした上で、“実績のあるアンモニア”“可能性のあるプロパン” “ほぼ理想的な炭酸ガス”についてその可能性を示唆し、冷凍工学の発展はこれら3種の冷媒でこれまでの 冷凍・空調のニーズを満足しうる、といっている。
     同じ1993年にドイツで「ノンフロン断熱・冷凍・空調」というタイトルのワークショップが開催され、 このワークショップの最後に“自然”冷媒(“Natural”Refrigerants)というセッションが行なわれ、 炭化水素の冷媒を用いた冷蔵庫の性能が発表になり、これが参加者の関心を最も集めた。1994年になると IIRの自然冷媒の第1回の国際会議がドイツのハノーバで開催され、自然冷媒に関する72の論文が 発表された。この会議は第2回が1996年デンマークのオーフスで開催されたが、参加者は400名と自然冷媒 に対する関心の高まりを示した。第3回は1998年今年の6月にノルウェーのオスロで開催されるが、HCFC の代替物質であるHFC冷媒が地球温暖化係数が高いため昨年の地球温暖化防止京都会議(COP3)で 削減対象となったことにより、関心が更に高まるものと予想される。
     ドイツ、オランダ、イギリスでは炭化水素の採用例がスーパーマーケットで増えている。 可燃性、高圧などの課題があるが21世紀の冷媒の選択肢となるであろう。本学会でも自然冷媒に 対し先導をはかるべく委員会が活動している。
    なお、IIRではヒートポンプへの応用を考慮して今後は自然冷媒を 自然作動流動体(Natural Working Fluid)と呼ぶことにしている。